星を買った。
 赤っぽく光る小さな星。
 星の命はもう長くない、と店員が言い、少し安く売ってくれた。
 その星は小さな雑貨屋の奥のレジの上に浮かんでいて、流れるオルゴールに合わせて微かに光ながら自らの衛星を眺めていた。

 茶色の紙袋に入れて、代金を払って店を出た。
 ドアを開けると、ちりん、とベルが鳴り、星が袋の中で、がさり、と動いた。
 外の世界が怖いのか?星。


 部屋に戻ってドアを閉める。
 少し怯えつつ、証明の光を反射して部屋を照らす星。
 青い衛星はゆっくりと星を回る。


 星に名前をつけた。
 昔大好きだった、歌に出てくる名前。
 音の響きや長さ、すべてがその星にぴったりだと思った。


 星はいつも天井近くにぷかぷかしていた。
 昼間は大抵寝ていて、夜になると部屋をゆらゆら衛星を従えて動いた。
 時窓の外を焦がれるように見ていることもある。
 空に帰りたいのだろうか、星。

 友達が部屋に来ると、星は少し怯えて部屋の隅へ行ってしまう。
 友達は興味津々で星をじろじろ眺める。
 星はよけい怖がって天井に張り付く。
 衛星は星を回れなくなって少し不機嫌になる。
 人見知りの星。とても愛おしく思う。



 星を買って1年経った。
 星に元気が無くなった。
 部屋の中の移動が減った。
 人が来ても動かなくなった。
 衛星も回るスピードが遅くなってきた。
 そろそろ寿命なのかも知れない。

 決心をした。

 夜、星は空を見ていた。
 窓ガラスにくっついて、ぼうっと見ていた。

 窓を開けた。

 星は戸惑っていた。
 本当に行ってもいいのか、とでも言うようにこちらを見た。
 行けよ、行きたいんだろう? と言うと、星は肯定するように少し光を増した。
 笑いかけてやると、星も決めたようだった。

 ふわふわとゆっくり空へ上がっていった。
 離れるにつれて星は光を増すようで、いいことをした、と思った。
 残り少ない星の時間が少しでも幸福であればと願い、窓を閉めた。





(いつでも帰ってきていいよ)


20080330 江連由弌

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